ハカセKの書斎

ある技術者の独り言

「晴天を衝け」の感想

 昨年末、NHK大河ドラマ「晴天を衝け」が最終回を迎えました。以前の記事で、渋沢栄一による「論語と算盤」の感想を書いた際に、同日初回だった「晴天を衝け」への期待も書きました。そこで今回、ドラマを見終わっての感想を述べたいと思います。
 まず、ドラマのリアリティーについてです。全体として、渋沢栄一の素晴らしさも、人間味溢れる部分も両面描かれていて違和感はありませんでした。明治以降の話は書籍などで知っていたことも多々ありましたが、生い立ちや幕臣時代の話、パリでの活躍などは知らなかったことが多く面白かったです。以前からどう描写するか気になっていた岩崎弥太郎との「屋形船会合事件」の回では、料亭での両者の激論をリアルに再現していました。また、栄一の負の側面である、「くに」さんを妾にした経緯、長男篤治廃嫡の顛末についても触れられていました。史実では「くに」さんは自分の知り合いの嫁に出す形で渋沢家を出されていますが、ドラマでは円満に一人で出ていったという描写になっていました。長男篤治廃嫡に伴い、孫の敬三に家を継いでほしいと頼む場面でも、生物学者になりたかった敬三の落胆よりも、祖父への尊敬の念に重きを置いた話となっていて、栄一の両面を描きながらもプラス面により光を当てたストーリーになっていると感じました。
 次に、ドラマとしての完成度についてです。一人の人物のみ描くと、一年続く大河ドラマでは間延びしがちですが、徳川慶喜渋沢栄一のストーリーを交錯させることで、内容に深みが出ていました。クライマックスでは、孫の敬三の視点で祖父栄一を描くことで、人間、渋沢栄一から、伝記の中の人物、「渋沢栄一」に変わっていく感じがありました。また、北大路欣也さんによる徳川家康のナレーションは斬新で、時代背景を知る助けになりました。
 非常に面白いドラマで十分満足だったのですが、あえて残念な点を挙げるとすると、栄一が大事にしていた論語に関する描写が少なかった点と、500以上の企業設立に関わった偉業がさらっと流されていた点です。これは、コロナ禍でロケができない時期があったこと、オリンピックで一ヶ月放送が無かったことから例年より10話ぐらい回数が少なくなったことが大きく影響したようです。あれだけの企業設立に関わる中で、色々な苦労があったはずで、その辺りのエピソードが描かれていれば、より面白い話になったのではないかと思われます。せめて45回ぐらいは何とかやって欲しかった。
 俳優陣については、豪華なだけでなく、ハマり役の方々が多く、よりドラマに引き込まれることになりました。吉沢亮さんの好演は勿論ですが、特に徳川斉昭役の竹中直人さん、岩崎弥太郎役の中村芝翫さんは存在感抜群のうえ、お顔も似ていて本当に引き込まれました。徳川慶喜を演じた草彅剛さんの演技も素晴らしく、慶喜の気品や苦悩を感じることができました。心に残るシーンは数多くありましたが、パリ行き前の栄一と慶喜が家康の遺訓である「神君遺訓」を共に唱えるシーンでは胸が熱くなりました。
 渋沢栄一という人物の魅力が存分に描かれた素晴らしいドラマでした。