ハカセKの書斎

ある技術者の独り言

米中貿易摩擦のゆくえ:予想外の中国の追い上げ

はじめに

米中貿易摩擦が激化する中、技術者目線で気になるのは、中国の半導体技術が昨今の輸出規制で弱体化するか否かです。今週の日経新聞の記事でそれを占う記事がいくつか目に留まったのでまとめてみました。一連の動きは、米国の今後の対中戦略の根本的な見直しが必要になるレベルと思われます。

半導体装置の輸入増と中国の技術進歩

2023年第3四半期、中国が半導体製造装置の輸入を大幅に増やしたことが明らかになりました。総額は約634億元(約1兆3100億円)に達し、前年同期比で93%の増加を記録しています。これは、米国の輸出規制に対する中国の明確な対抗策とも言えるでしょう。中でも半導体の微細配線形成に必要な露光機の輸入が大幅に増えています。最先端の露光機は輸出規制の影響で輸入できませんが、その一世代前の装置を多数輸入しているようです。

Huaweiの先端半導体搭載スマートフォン

今週日経新聞に掲載されたのが、Huaweiの新モデル「Mate60Pro」に関する記事です。これによると、このデバイスには、7nm世代の半導体が搭載されていることが確認されました。現在最先端の3nm世代のデバイスには及びませんが、米国の想定よりも数年早くこの世代に到達したようです。ちなみに、24年度立ち上げ予定のTSMC熊本工場のデザインルールは22~28nmでこれが現段階での日本の最先端レベルです。前述の一世代前の露光機で歩留まり度外視で製造したとの見方もありますが、Huaweiのこの動きは、米国の警戒心をさらに強めることになるでしょう。

自国部品比率の増加

「Mate60Pro」における中国製部品の使用率は金額ベースで47%に達しています。これは、3年前のモデルと比べて18ポイントの増加を示しており、中国の半導体の内製化率が高まっていることを物語っています。これは中国に対する輸出規制の効果が弱まっていることを意味しており、米国は対中国の技術戦略を根本的に見直す必要に迫られたと言えます。

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20231114&ng=DGKKZO76090790T11C23A1TEB000

スーパーコンピュータのランキング変動

一方で、科学技術力の象徴とも言えるスーパーコンピュータの世界では、日本の「富岳」が最新のランキングで4位に後退し、米国の「フロンティア」が4期連続で首位を獲得しました。このランキングは、国ごとの科学技術力のバロメーターとして機能しており、今回の結果は米国の技術的優位を明確に示しています。しかし、注目すべき点は、中国がこのリストから姿を消していることです。米中摩擦の影響を受け、中国が自国のスーパーコンピュータ開発の成果を公開しない選択をした可能性があります。このことは、米中の技術競争が新たな局面を迎えていることを示唆しています。

おわりに

中国の技術革新の速度は、米中貿易摩擦の影響で一時鈍化しましたが、再び加速し始めたようです。AIなどの情報通信技術の基盤は半導体技術ですので、中国の状況変化により世界の市場構造が変わり、ビジネス戦略の見直しを促すかもしれません。今後もこの分野の動きを注視していこうと思います。