ハカセKの書斎

ある技術者の独り言

【読書メモ】ファーウェイと米中5G戦争

■はじめに

 米中貿易戦争が激化する中、渦中のファーウェイの動向が気になっており、以前読んだ本書を改めて見直してみました。

■本の内容

書名:ファーウェイと米中5G戦争

概要:2019年7月発売。米中貿易戦争が激化する中、ファーウェイは生き残れるのか、また生き残らせるべきなのか、を洞察した本。同社の分析から今後の米中、日中関係に及ぼす影響まで著者の視点で分析されている。

 

著者情報:

近藤大介(コンドウ ダイスケ)

 中国、朝鮮半島を中心に東アジアでの豊富な取材経験を持つジャーナリスト。2020年12月現在で、講談社週刊現代』特別編集委員、『現代ビジネス』コラムニストを務める。
 
出版社:講談社

■感想

 「巨竜は生き残れるのか、そもそも生き残らせるべきなのか──これが本書のテーマである。」著者の近藤氏は言います。
 この本を読むと、Huaweiという企業の歴史、トップの任正非CEOの思惑、米国、台湾、日本との関わりが予備知識がなくても理解でき、台湾の重要性もよく分かります。実際、Huaweiの世界戦略の根幹である最先端半導体は、台湾の半導体製造メーカー:TSMCの一社独占状態となっています。Huaweiは、この最先端半導体を中国メーカからの調達や自社製造を模索していますが、技術的なギャップが大き過ぎて全く目処は立っていません。氏は、米中貿易戦争の鍵は台湾が握っており、台湾を制するものがこの戦いを制す、と見ています。
 今後の米中関係、日本として中国にどう付き合っていくか、非常に考えさせられることが多い書籍だと思います。
 以下、気になった記載を抜粋します。
「西側諸国の人々は、『中国政府は個人のプライバシーを剝奪 している』と非難するが、あと 10 年、 20 年すれば、資本主義国だろうが社会主義国だろうが状況は同じになる。すなわちあらゆる個人データも個人の行動も外部に捉えられ、この地球上からプライバシーという言葉は死語になる」
「中国模式」は、国民の政治的自由を抑制し、民主専制という、トップ(習近平総書記) に国民が政治的意思を委託するシステムである。その代わりトップは、「人民の最大利益」のために政治を行う。為政者にとっては、国民による審判(民主選挙) も反対野党による国会論戦も、マスコミによる批判報道もない、極めて効率的なシステムだ。 
 恐ろしい話ですが、私もこの見方には同感です。理由は、AIと民主専制は非常に相性が良く、極めて効率的に国民を監視することができ、中国経済が失速しかけた時にこれを救ったのがAIと言われているからです。ある新聞記事で、監視カメラの画像で、大通りを歩く人々の顔全員に国民番号が記されている絵を見てゾッとしたことがあります。リアルタイムで全国民の動きが政府に把握されているのです。
ところが、5G及び第4次産業革命において、先進国を抑え込んで、一気呵成に主役の座に就こうとしているのが中国なのである。そして、その中国を牽引しているのがファーウェイである。  
あくまでも個人的な意見だが、私はこの先の展開を悲観的に見ている。これから2020年秋のアメリカ大統領選挙に向けて、トランプ政権の対中政策は、ますます強硬になっていくことが見込まれる。それに伴って今後、『中国ブロック』と『アメリカブロック』という『世界経済のブロック化』が進んでいくのではないか」
ともあれ、中国が台湾を統一した瞬間に、米中ハイテク覇権戦争は中国側が勝利する。そしてそれは、 21 世紀の世界の覇権が、アメリカから中国へと移行していくことを意味する。
 先日、混乱の米国大統領選挙が終わり、バイデン新大統領が誕生する見込みです。バイデン氏が大統領になると中国に対して融和的になるとの見方もありますが、中国に対する警戒感は、もはやアメリカ全体の共通認識になっているようなので、この流れは変わらないでしょう。そうすると、近藤氏が予測するように、台湾動向が世界情勢を大きく左右することになると思われます。
 
 最後に、Huaweiの任正非CEOの持論が紹介されていました。要は、アメリカ的な正義・善悪の価値観と中国的な東洋哲学的な価値観のぶつかり合いになってくるというのです。その意味で、東洋哲学と西洋哲学の両方を理解する日本の役割は益々重要になってくると考えられます。中国や日本の古典、欧米の哲学書を紐解き、国々の考え方の違いを比較してみても面白いと思いました。
 

 

ファーウェイと米中5G戦争 (講談社+α新書)

ファーウェイと米中5G戦争 (講談社+α新書)

  • 作者:近藤 大介
  • 発売日: 2019/07/20
  • メディア: 新書