ハカセKの書斎

ある技術者の独り言

【読書メモ】2020年の中国 「新常態」がもたらす変化と事業機会

■はじめに

米中貿易摩擦やコロナ禍での経済低迷などの不確定要素が多い中、中国ビジネスの動向が気になっている方も多いと思います。

 

そんな今だからこそ、改めて中国という国はどういう原理原則で動いているのかよく考えてみたいと考え、4年前に読んだ本を見直してみました。

 

■本の内容*1

書名:2020年の中国 「新常態」がもたらす変化と事業機会
 
概要:現地コンサルタントが中国の市場・企業・消費の変化を徹底分析。「新常態」下での日本企業の新たなチャンスとは。今後の中国ビジネスのポイントは、「地方市場の底上げと市場ニーズの同質化」、「中国式創新企業との協業と競争」の2点。最前線の動向を踏まえ、日本企業のビジネスチャンスと新戦略を考える。
 
著者情報: 
此本 臣吾(コノモト シンゴ)
 1985年(株)野村総合研究所入社。2015年より代表取締役専務執行役員ビジネス部門担当。 
 
松野 豊(マツノ ヒロシ)
 1981年(株)野村総合研究所入社。2007年より清華大学野村総研中国研究センター理事・副センター長。 
 
川嶋 一郎(カワシマ イチロウ)
 1992年(株)野村総合研究所入社。2014年より野村総研(上海)諮詢有限公司董事総経理。  
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
 
出版社:東洋経済新報社 (2016/3/18)
 

■感想

 中国という国家の特徴を紐解いたうえで、中国ビジネスの考え方がロジカルに纏められた良書だと感じていました。この本の中で最もコアなメッセージだと思ったのは次の一節です。

官製コントロールが機能している中国での事業展開においては、いくつかの鉄則のような留意点がある。たとえば、「中国の投資は五ヵ年計画に沿って行われる」「社会の不安定につながる課題には必ず党や政府の介入がある」等であり、これらの変化をしっかり察知すれば、ある程度の事業リスクはコントロールすることができる。

  つまり、5年ごとに更新される五ヵ年計画を分析し、社会の不安定化につながる要因を見極めていけば、事業リスクのコントロールとともにビジネスチャンスは見つかる、ということになります。では、どんな領域にチャンスがあるのでしょうか。著者らは言います。

習近平主席と李克強総理が共に博士号を持つ初めての政治指導者であること、また彼らの博士論文は、それぞれ「農村の市場化」と「経済構造」がテーマになっており、習近平政権発足後の中国の重要政策には彼らの研究成果ともいうべきものが色濃く反映されていることである。

  中国政府は、近年、内需拡大方針を鮮明にしており「一帯一路」政策ともリンクしています。これは習近平主席と李克強総理の研究テーマが反映された結果なのでしょう。具体的な領域としては、五ヵ年計画の「戦略新興産業」である以下の分野が挙げられています。

①省エネ・環境保全産業 ②情報技術産業 ③バイオ技術産業 ④高付加価値工作機器や重装備製造業 ⑤新材料産業 ⑥新エネルギー産業 ⑦省エネ・環境対応型自動車産業

 私は特に情報技術産業に関心があります。これに関しては、「中国では世界で最も先端的なインターネットサービスがこれから続々と生まれ、インターネットビジネスにおいて中国は世界の中心になると考えている」との見解が述べられています。私も中国ビジネスをウオッチしてきましたが、ここ数年の中国でのネット関連産業の進化はめざましく、著者らの見立ては当たっていたと言えます。一方で、最近顕在化している米中貿易摩擦の結果、ネットのブロック化、すなわち、欧米のGAFAGoogle、Amazon、Facebook、Apple、中国のBATH(BaiduAlibabaTencentHuaweiに二分化される傾向がさらに強まると考えられており、日本企業の立ち位置が難しくなってきていると感じます。

 そして、「中国自身がこう変化したいと思う方向にこそ、我々日本企業のビジネスチャンスが潜んでいる」と考えるのが重要ではないだろうか、との問題提起がありました。加えて、中国でビジネスを成功させる鍵は中国企業との協業で、パターンは三つあるとしています。

  1. グローバル市場で販売する製品を安価に製造するための協業
  2. 拡大する中国市場において、日本企業が自社の製品・サービスをよりスムーズに販売することを目的にした協業
  3. 中国式創新企業(中国ベンチャー)との協業

 中国地場企業の台頭が進む中での米中対立の激化を受け、まだ前面に出ていない中国ベンチャーとの協業を、今こそ考えるべきかもしれません。 

 

2020年の中国

2020年の中国

 

*1:Amazonより