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【読書メモ】現代語訳 論語と算盤

■はじめに

 NHK大河ドラマ「青天を衝け」が今日からスタートします。このドラマの主人公は渋沢栄一。私が好きな歴史上の人物ベスト3に入る偉人です。理由は、経済と道徳は両立すると説き、公のために尽力された理の人でありながら、バイタリティに溢れる逸話も持つ人間味のある英傑だと思うからです。今回取り上げた「論語と算盤」は折に触れて見返す座右の書の一つです。ドラマ第一話を楽しみにしつつ、今朝、本棚から本書を手に取り読み直しました。
 

■本の内容(「論語と算盤」より抜粋)

書名:現代語訳 論語と算盤
概要:2010年2月発売
 日本実業界の父が、生涯を通じて貫いた経営哲学とはなにか。「利潤と道徳を調和させる」という、経済人がなすべき道を示した「論語と算盤」は、すべての日本人が帰るべき原点である。明治期に資本主義の本質を見抜き、約470社もの会社設立を成功させた彼の言葉は、指針の失われた現代にこそ響く。経営、労働、人材育成の核心をつく経営哲学は色あせず、未来を生きる知恵に満ちている。
 
著者情報:
 渋沢栄一(しぶさわ えいいち)
 1840〜1931年。実業家。約470社もの企業の設立・発展に貢献。また経済団体を組織し、商業学校を設立を創設するなど実業界の社会的向上に努めた。
 
訳者情報:
 守屋 淳(もりや あつし)
 1965年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大手書店勤務後、中国古典の研究に携わる。雑誌連載、講演などを数多く行う。
 
出版社:ちくま新書
 

■本文抜粋と所感

 
 本書は渋沢栄一が書いたわけではなく、その講演の口述をまとめたものです。その意味では、本書の主題であり、孔子の言葉をまとめた「論語」と似ているかもしれません。
 今回、改めて見直してみて、心に響いた箇所を抜粋します。
 
世の中のことは、「こうすれば必ずこうなるものだ」という原因と結果の関係がある。ところがそれを無視して、すでにある事情が原因となってある結果を生じてしまっているのに、突然横からあらわれて形成を変えようとし、いかに争ってみたところで因果関係はすぐに断ち切ることができない。(中略)人が世の中を渡っていくためには、成り行きを広く眺めつつ、気長にチャンスが来るのを待つということも、決して忘れてはならない心がけである。
逆境に立たされる人は、ぜひともその生じる原因を探り、それが「人が作った逆境」であるのか、それとも「人にはどうしようもない逆境」であるのかを区別すべきである。その後、どう対処すべきかの策を立てなければならない。(中略)逆境に立たされた場合、どんな人でもまず、「自分の本分」だと覚悟を決めるのが唯一の策ではないか、ということなのだ。現状に満足することを知って、自分の守備範囲を守り、「どんなに頭を悩ませても結局、天命であるから仕方がない」とあきらめがつくならば、どんなに対処しがたい逆境にいても、心は平静さを保つことができるに違いない。
利益を得ようとすることと、社会正義のための道徳にのっとるということは、両者バランス良く並び立ってこそ、初めて国家も健全に成長するようになる。個人もちょうど良い塩梅で、富を築いていくのである。
人情の弱点として、利益が欲しいという思いがまさって、下手をすると富を先にして道義をあとにするような弊害が生まれてしまう。それが行きすぎると、金銭を万能のものと考えてしまい、大切な精神の問題を忘れ、モノの奴隷になってしまいやすいのだ。
たとえどんなことでも、自分のやるべきことに深い「趣味」を持って努力すれば、すべてが自分の思う通りにならなくても、心から湧き出る理想や思いの一部分ぐらいは叶うものだと思う。孔子の言葉にも、「理解することは、愛好することの深さには及ばない。愛好することは、楽しむ境地の深さには及ばない」とある。これは「趣味」の極致といって良いだろう。自分の務めに対しては、この熱い真心がなくてはならないのだ。
 
 最後の一節は論語の「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好むものはこれを楽しむものに如かず」の引用でしょう。私の好きな言葉の一つです。
 
 渋沢は道徳観を持ちながら商売に向き合うことの重要性を本書の中で繰り返し述べています。「賢者は、貧賤な境遇にいても、自分の道を曲げない」という孔子の教えを引用しつつ、武士道のもっとも重要な部分である「正義」「廉直」「義侠」などにあてはまるとしています。元武士であった渋沢は武士道を重んじる実業家であろうとしたのでしょう。
 
 また、各章は、処世と信条、仁義と富貴、など相反するであろうキーワードを両面から考え、「中庸」を大切にしていた姿勢が読み取れました。善悪や損得の二元論で語られがちな欧米の資本主義的な思想とは一線を画す、日本人にとって受け入れやすい考え方だと思います。
 
 一方、本論を一読すると、素晴らしい偉人の姿しか見えないのですが、巻末の守屋氏による「渋沢栄一小伝」を読むと、渋沢の違った側面が浮かび上がります。三菱の創始者である岩崎弥太郎と対決した「屋形船会合事件」では、自分と組んで日本の富を独占しようと持ちかける岩崎に対して、渋沢は日本全体を発展させるために、独占すべきでないと主張して二人は激しく対立します。
 
 結果、会合は物別れに終わって渋沢は帰ってしまうのですが、その席にいた馴染みの芸者と姿を消したそうです。先日テレビで渋沢栄一を解説する再現ドラマをやっていたのですが、渋沢と岩崎の横に芸者はおらず、渋沢は一人で帰っていましたね。。。
 
 私生活についても触れられていましたが、道徳を口にするわりに女性関係にだらしないのが唯一の弱点と本人も認めていたようで、子供は三十人以上いたらしいです。
 
 このように偉人でありながらバイタリティに溢れる渋沢栄一は本当に魅力的な人物です。大河ドラマではどのように描かれるのでしょうか。本当に楽しみです!

 

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)